史跡などにおいて天守や櫓、門などを復元するときの新基準が決定しました。
令和2年(2020)4月17日、文化庁が発表しました。
国史跡などで歴史的建造物を復元するとき、本来の意匠や構造が十分には分からなくても文化庁の許可を得やすくすると思われます。
これで、新たな復元天守の建築や建て替えなどが進むと期待できます。
以下に深掘りしていきます。
お城の天守・門・櫓・御殿が復元しやすくなる。史跡の魅力・価値向上の新基準が決定しました。
史跡などにおいて天守や櫓、門などを復元するときの新基準が決定しました。
令和2年(2020)4月17日、文化庁が発表しました。
「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」(令和2年4月17日)です。
この新基準によれば、国史跡などで歴史的建造物(天守、櫓、門など)を復元するとき、本来の意匠や構造が十分には分からなくても文化庁の許可を得やすくすると思われます。
これで、新たな復元天守の建築や建て替えなどが進むと期待できます。
以下に深掘りしていきます。
復元等の新基準でどうなるのか?
新基準ができました!と言ってもどうなるのかわからないので、解説していきます。
著者の解釈では、
- 現行の「外観復元天守」の建て替えが可能となる
- 新たな「復元天守」を作りやすくなる
- 櫓、門、御殿などが復元しやすくなる
と考えられます。
- 現行の「外観復元天守」の建て替えが可能となる
- 新たな「復元天守」を作りやすくなる
- 櫓、門、御殿などが復元しやすくなる
例えば、現在の和歌山城天守はRC造の「外観復元天守(がいかんふくげんてんしゅ)」です。
耐震の課題があってどうするかの議論がされていますが、こういったものの建て替えができるようになるのです。
その他には、天守を復元しよう!という動きがあるところについても、天守が復元しやすくハードルが下がった感じがします。
今までの基準では「史実に基づく復元」が基本。
が、基準が厳しいためになかなか許可が下りないというのが現状でした。
つまり、外観も内部も、材料や構造、規模なども史実に忠実にというものだったので、ほとんど不可能ですよね。
これが「復元的整備」というものが定義されたために、復元しやすくなるということです。
復元が進みそうな具体的な事例
この基準に従って、復元を加速させようとしている天守がすでにあります。
- 高松城天守(香川県高松市)
- 福山城(松前城)天守(北海道松前町)
- 名古屋城天守(愛知県名古屋市)
- 首里城正殿など(沖縄県那覇市)
です。
高松城天守(香川県高松市)
高松市は、高松城天守復元に向けて、外観を忠実に再現しつつ内部構造の一部を変更して再現する「復元的整備」を目指すと表明しています。
天守が復元されれば、三重四階の南蛮造り(唐造り)となります。
南蛮造りとは、最上階が下の階より張り出した形のことです。
現在は天守台の整備も完了しており、天守復元に向けて準備を進めているところです。
楽しみですね。
福山城(松前城)天守(北海道松前町)
北海道松前町は、福山城(松前城)跡にある現在の復興天守を、木造で建て替えて復元する方針を発表しています。
概算で天守に30億円、整備期間は最短でも16年と試算されています。
福山城は安政元年(1854)に完成。
昭和16年(1941)に天守が国宝となりましたが、昭和24年(1949)に焼失してしまいました。
その後、昭和34年(1959)にRC造で模擬天守を再建しました。
これを木造で復元するとなると、より一層価値が高まりそうですね。
名古屋城天守(愛知県名古屋市)
名古屋城天守の木造復元については、2020年4月現在、名古屋市の方針に対して文化庁が許可を出していない状況が続いていますが、史実に基づく「復元」から「復元的整備」へと切り替えて木造再建を進める可能性もあります。
名古屋市はまだ史実に基づく復元を目指しているようですが、今後の動きに注目したいと思います。
首里城正殿など(沖縄県那覇市)
首里城はご存知の通り、令和元年(2019)10月31日に火災により正殿など6棟がほぼ全焼してしまいました。
すぐさま、那覇市が再建を表明し、国もバックアップするとしています。
多くの方がショックを受けた火災ですが、今後の進捗に注目しましょう。
その他
この新基準は天守に限ったことではなく、櫓、門、御殿、その他の建物も含みますので、各城跡で保存活用計画を策定している、またはこれから策定するところでも整備が進むものと期待します。
櫓や門などの復元を進めているところもたくさんありますが、この新基準によってさらに加速するといいですね。
「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」のポイント
ここからは新基準のポイント解説です。
さらに難しい話になりますので、飛ばしたい方は、どうぞ飛ばして読み進めてくださいね。
「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」のポイントは二つ
新基準のポイントは二つあります。
- 「復元」と「復元的整備」の二つの基準ができたこと
- 「復元的整備」では規模、材料、内部・外部の意匠・構造などの一部を変更して再現することが可能なこと
一つは、「復元」と「復元的整備」の二つの基準ができたこと。
もう一つは、「復元的整備」では規模、材料、内部・外部の意匠・構造などの一部を変更して再現することが可能なこと。
この二つです。
詳しく解説していきます。
「復元」と「復元的整備」の二つの基準ができた
「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」では、「復元」と「復元的整備」の二つの基準ができました。
明確化、明文化された意義は大きいです。
つまり、建物などの「復元」とは当時の規模・構造・形式などで忠実に再現することで、「復元的整備」は外観を忠実に再現しつつ、内部の意匠・構造を一部変更して再現すること、と定義したのです。
基準の原文はもっと難しい表現をしていますが、かみ砕いて書くとこういうこと。
- 「復元」…当時の規模・構造・形式などで忠実に再現すること
- 「復元的整備」…外観を忠実に再現しつつ、内部の意匠・構造を一部変更して再現すること
今までは「復元」は認められていましたが、「復元的整備」は実質的に難しかった。
それは定義があいまいであり、基準が厳しかったから。
それが明確に定義されたことで、「復元的整備」が進めやすくなったと言えるでしょう。
そして「復元的整備」によって天守も再建するところが増えてくるでしょうし、それ以外の建物も再建が増えるでしょう。
そういう意味で、この二つの定義を明確化したことはとても意味がありますね。
「復元的整備」では規模、材料、内部・外部の意匠・構造などの一部を変更して再現することが可能になった
ポイントの二つ目に挙げたことを解説します。
先にも書いた通りですが、規模、材料、内部・外部の意匠・構造の一部を変更して再現することを「復元的整備」と定義したことによって、逆にそのような再現をすることが認められるということです。
今までは厳格な基準があり、それを満たさないと許可されなかったものが、「復元的整備」として許可される可能性が高くなったということです。
ここでポイントになるのは、その「復元的整備」が史跡などの「本質的価値の理解促進」、「利活用の観点」から史跡などの「保存及び活用に寄与する」ものでなければいけないということです。
「復元的整備」が認められるからと言って、もちろん何でもいいから再現できるということではありません。
史実に忠実に「復元」したくても、資料などが足りずに今までだったら「復元」をあきらめていたものが、史跡などの歴史的な価値の「理解を促進する」ことや「利活用」されるものという要件を満たしていれば「復元的整備」することができるということです。
ちょっと難しいですが、新基準に沿って「復元」「復元的整備」という手法を使えば、いろいろなお城の整備の幅が広がる、整備が進むということですね。
「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」(令和2年4月17日)
復元を理解するためのおススメの記事と本
最後に、「復元」をもっと理解するための記事と本のご紹介です。
おススメの記事
「復元天守」
おススメの本
日本の城 天守閣 完全名鑑 (廣済堂ベストムック)
これは全国の「現存天守」「復元天守」「復興天守」「模擬天守」が一冊にまとまった本です。
眺めてるだけでも楽しい本ですよ。
まとめ
今回はちょっと難しいお話でしたが、お城ファンの間でいつも議論になる「復元」というものが「復元的整備」という基準が明確化されたことによって、お城の整備がより一層進むということでした。
今後のお城の整備に大注目していきましょうね!
ということで、「お城の天守・門・櫓・御殿が復元しやすくなる。史跡の魅力・価値向上の新基準が決定しました。」というお話でした。
今日もお城ネタで楽しいひと時を。
じゃあね👍
2020年04月20日
犬山城マイスター!たかまる。
復元されやすくなるのはいいのですが、中途半端な復元建物が増える心配もあります。
みえさん、コメントありがとうございます。
確かにその心配はありますね。
ただ、史跡内での復元については保存活用計画が必要ですし、文化庁のOKももらわないと進められないので、変なものにはならないと思いますよ。